僕がAと言ったものを、君はCと言うかもしれない。
人は十人十色らしいから、勿論意見の合わない人も居る訳だ。
だけど、喧嘩はやめてほしいな。
君達絶対、後まで長引かせるだろう?
8.The first flying lesson【A chance meeting】
入学から早一週間。
その日は太陽が顔を見せ、柔らかな風も心地よく、皆の気持ちは晴れやかだった。
天気がいいからというだけではない。
今日の一大イベントは、そう。
箒に乗って空を飛ぶ『アレ』。
「エーバンスー! ー! おっはよー!」
「あら、今日も賑やかねジェームズ。おはよう」
満面の笑みで駆けてくるジェームズとは逆に、強張った表情でリリーが振り返った。
「だってエバンス、今日は飛行訓練なんだよ! これを楽しみにしないでどうするんだい?
人生の半分を損してると思うよ! ねぇ!」
「にゅーん? そうかな、そんなにしないとは思うけどねー。
もうっ、リリー大丈夫だって。そんな今すぐ世界が終わるような顔しなくても」
軽く肩を叩いて、は笑った。
そんな彼女にくわっと牙をむくように、リリーが迫り寄った。
「怖くないの!?」
「ほよっ?」
「あり得ない! 考えられない! だって足が地面についてないんでしょう!?
落ちたら首の骨を折るに違いないわ! 自分の体を、一体何で支えろっていうのよ!」
「リ、リリー?落ち着いて・・・」
正面に座るが、怯えたように言う。
隣席のピーターは縮こまってにしがみ付き震えているし、カレッジは丸くなってローブに隠れた。
「これが落ち着いていられると思う!? 平均台とは訳が違うのよ! 失敗したら、命に関わるのに!
、運命だなんて言わないで頂戴ね。そんな運命、勘弁だわ! あんな空の高いところに・・・支えも無いのに行くなんて。
信じられない!」
「ほんとだよ。マジ、信じらんねぇ」
「そうでしょ!? って・・・シリウス?」
突然口を挟んだシリウスに、先ほどの剣幕はどこへやら、リリーは目を瞬かせた。
「あなた、乗ったことないの? 箒」
「あ? 箒なんざ嫌ってほど乗ってるよ。嫌じゃないけど。
そうじゃなくて・・・」
「スリザリンと合同だもんね」
リリーが叫ばなくなったので、安心したらしい。
苦笑いを浮かべて、そう言った。
先ほどまでたじたじだったジェームズも、なんとか復活して輪に加わった。
「成る程ね。あんなに楽しみにしてたのに、今朝になっていきなり不機嫌になるんだもん、僕はビックリしたよ」
「だってよー、何が嬉しくてあんな奴らと・・・
あーっ! 考えただけで虫唾が走る! おい、とっとと食って大広間出ようぜ」
ピーターが、ぽつりと言った。
「あの・・・食べてないの、シリウスだけだよ・・・?」
「・・・・・・」
ジェームズの笑い声と、それに吼えるシリウスの声が、賑やかに響き渡った。
午前の授業の間も、リリーの脳内には飛行訓練のことしか入っていなかったようだ。
得意の呪文学ですら、今日は失敗ばかりだった。
「リリー? まだ嫌なの?」
が心配して窺う。
眉間に皺を寄せ、リリーは頷いた。
「私は魔法なんかと無関係だったのよ? いきなり地面の無いところに、しかも木一本で行かなきゃならないなんて・・・
嫌じゃない人の方が珍しいと思うわ。だって、最初怖くなかったの?」
問われて、はきっぱりと首を横に振った。
「パパがね、すっごく楽しいって教えてくれてたから。空飛ぶことの何が面白いのかなとは思ったけどね。
でも飛んでみて分かったんだ。
だって、風の音が聞こえるんだよ。人も街も、小さく見えるの。
それに、視界を遮るものがないでしょう? まるで世界があたしだけのものになったみたい」
悪戯っぽく笑うと、リリーは呆気にとられていた。
中庭に出ると、まだ若干の暖かさを残した風が、二人の頬を撫でた。
赤い髪の毛を片手でおさえながら、リリーは空を見た。
「不思議ね」
「ん?」
「に言われると、何でもできそうな気がしてくるの」
一瞬きょとんとしたが、はふふっと笑った。
同じように空を見る。
「運命に任せてるだけだよ」
空はどこまでも青い。
途中でたちに合流し、六人と一匹は笑いながら競技場を目指した。
ピーターも少し怖がっているような素振りで、リリーと苦笑いをしながら歩いていた。
競技場の、そのすぐ横には小さな森がある。そこの入り口に、はグリフィンドールカラーのローブを見つけた。
鳶色の髪が見える。
「あ、リーマスだ」
呟くと、シリウスとジェームズが二人同時に顔を向けた。
「ホントだ。意外に早いね、来るの。
おーい、リーマスー!」
手を振りながら、ジェームズが走り出した。
シリウスもその後を追う。
二人とも、横から来る人物に気付かずに。
が警告を発した時には、もう遅かった。
ジェームズは、スリザリンの男子生徒とぶつかってしまった。双方しりもちをつく。
「ジェームズ!」
慌ててシリウスが駆け寄った。
「いたたたた・・・っと、ごめんね、よく・・・」
ジェームズは謝りかけて、唐突に言葉を切った。
男の子が、これ以上ないほどにこちらを睨んでいたからである。
黒い髪のその男の子は、ローブについた芝を払いながら言った。
「いつも喧しいその口が、謝罪のために使われることはないのか?」
ジェームズは呆気にとられて彼を見る。
「思い当たらないのか? 食事の度に騒いでいるのはどこのどいつだ。全く・・・」
短気で喧嘩っ早いシリウスは、後ろで震えている。
に服を掴まれていなければ、既にここは戦いの場になっていたことだろう。
しかし、シリウスより先にジェームズが反論した。
それも、嫌らしいほど爽やかな笑みを浮かべて。
「僕は謝ろうとしたけどねぇ。
君が睨むものだから、僕もそれ相応の態度をとってあげようかなって思ったんだけど。
お気に召さなかったかい?」
スリザリンのその少年は、読んでいた本を拾い上げ、眉間に深い皺を寄せた。
「毎日あんなに騒いで、迷惑になっているんだ。睨まれるのは当然だと思うが」
「そんなに静かなのが良ければ、一人で違う所に行って食べたらどうだい?」
「つーかこんな奴に謝罪なんてする気おきねーし」
シリウスも加わって、三つ巴の睨み合いが始まってしまった。
ピーターがあたふたとジェームズのローブを引っ張る。
「ちょっ、ジェームズ、やめなよぉ・・・」
「っていうか、喧嘩されると冗談じゃなく気分悪くなるんだよね・・・
やめてくれない?シリウス」
シリウスのローブを、掴むというより、半ばそれに縋る形でが言った。
顔色はすこぶる悪く、カレッジも慌てる。
だんだん慣れてきたといえども、未だこういう場面には弱いのだ。
このような、特に悪い感情を激しくぶつけるような場面には。
リリーは腰に手を当てて、諫めた。
「ちょっと、喧嘩はやめなさいよ。
勿論、本を読みながら来たそっちも悪いけど、ジェームズ、前を見ていなかったあなたも悪いのよ?
喧嘩両成敗でしょう? お互いに謝ったらいいじゃない、つまらない意地張らないで」
彼女の言うことは一応正論なのだが、今のジェームズとシリウスには鬱陶しい言葉でしかない。
より激しくなる睨み合い。
すると、今まで傍観者に徹していたが、ふわふわ笑いながら間に割って入った。
「まぁまぁ、取り敢えず落ち着いて。セブルスも、今から皺が増えちゃうよ」
「!? 何故こんな奴らと・・・」
「!? なんでこんな奴知ってるの!?」
少年とジェームズの台詞が見事に重なった。
シリウスが怪訝そうに少年を見た。視線は外さず、に問う。
「知り合いなのか?」
「ん。ダイアゴン横丁で会ったの。ねー」
同意を求められ、少年は戸惑いつつ頷いた。
ジェームズは爽やかな笑いを崩さずに、しかし冷ややかな目元で彼を見た。
「それはそれは・・・幸運だったね。
そうじゃなきゃこんな可愛い子、僕が一生会わせなかったのに」
「なにっ・・・!」
ジェームズが続ける。
「エバンスが言うから謝るけど・・・さっきは悪かったよ。
僕の名前はジェームズ・ポッター。以後お見知りおきを。
ほら、シリウス?」
「は? 俺もかよ。」
文句を言ったシリウスだったが、ジェームズの視線からどうやら何かを感じ取ったらしい。
口の端を引き上げ、意地悪く笑う。
それはなかなか様になっていて、偶然そこを通りかかった女生徒は、総じて手に持っているものを落とす始末だった。
「も参っちまってるし・・・悪かった。
スリザリンなら知ってると思うけど、俺はシリウス・ブラック。
どうぞよろしく。なんなら握手もしてやろうか?」
突然謝りだした二人に、一同、気味悪そうな視線を送った。
は少年を促す。
「セーブー?」
「ちっ・・・
セブルス・スネイプだ」
舌打ちと共に、彼は名前のみを告げる。
それを見て、は苦笑した。
「仕方ないなぁ、もう」
「ほんとね。どうしてこうも意地っ張りなのかしら。
大丈夫? ピーター、カレッジも、行きましょう」
リリーの先導で、再び競技場を目指して歩き出す四人。
それを少し見送ってから、ジェームズはセブルスに向き直った。
「セブルス、だっけ?
僕達の目に留まるなんて・・・不運だったねぇ」
「全くだな、スネイプ。
ああ、今度ぴったりのあだ名考えてきてやるよ。
お近づきの印にってな」
眉間の皺が消えないセブルス。
遠くでピーターの呼ぶ声がする。
ジェームズは残念だ、とばかりに肩を竦めた。
「呼ばれちゃった。
それじゃあセブルス、七年間よろしくね」
「お前らなど、端から願い下げだ」
にべもなく言い放つセブルスの肩に手をかけ、シリウスが囁いた。
「そうつれないこと言うなって。仲良くやろうぜ?
―――まあ、嫌でもてめぇに拒否権は無いけどよ」
「箒の横に立って! グズグズしない!」
よく晴れた青空の下、嵐の飛行訓練が始まった。
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